治験(ちけん)とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に関して、薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験のことを言います。元々は、「治療の臨床試験」と言われておりその略です。
治験は国(厚生労働省)が定めた法律(GCP省令:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)と国際的なルール(ICH:International Conference on Harmonisation、日米EU医薬品ハーモナイゼーション国際会議)に従って行われ、そのデータを基に医薬品として適切であるかどうかを国(厚生労働省)が審査します。現在、医療機関や薬局で使われている医薬品は、こうした治験によってその有効性や安全性が確認されたものです。
治験は第I相から第IV相までの4段階で行われます。
各試験の内容は次にしめします。
第Ⅰ相試験(フェーズ Ⅰ)
- 対象者
- 健常成人(自由意思に基づき志願した人)
- 試験目的
- 被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討する探索的試験です。
動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップであり、安全性を検討する上で重要なプロセスです。
抗がん剤などの投与自体に軽い手術や長期間の経過観察や予め副作用が予想されるものは、外科的に治療の終わった患者(表面的には健常者)に対して、補助化学療法としての試験を行うことがあります。
また、抗がん剤の試験の場合は、第Ⅱ相で用いる用法・用量の限界を検討することも重要な目的となります。
第Ⅱ相試験(フェーズ Ⅱ)
- 対象者
- 比較的軽度な少数例の患者
- 試験目的
- 第I相の結果をうけて、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う探索・検証の両方の目的を併せ持つ試験である。第Ⅲ相の試験で用いる用法・用量を検討するのが主な目的です。
有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して用量反応性を検討したり、その試験の目的に応じて様々な試験デザインが採用されます。
探索・検証の両方の目的から、探索的な前期第II相と検証的な後期第II相に分割することもあります。
第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもあります。
また、毒性の強い抗がん剤に関しては、この第II相で腫瘍縮小効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行うことがあります。
第Ⅲ相試験(フェーズ Ⅲ)
- 対象者
- 患者(発売後に実際にその化合物を使用すると思われる人)
- 試験目的
- 有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われます。
それまでに検討された有効性を証明するのが主な目的です。
ランダム化や盲検化などの試験デザインが採用されることがほとんどです。数百例以上の規模になることもあるため、多施設共同で行う場合が多く、抗がん剤の場合は、製造販売後に実施されることが多いです。
当院で実施している治験はこの第Ⅲ相試験になります。
製造販売承認申請
第I相から第III相までの試験成績をまとめ、医薬品の製造販売承認申請が行われます。
規制当局(医薬品医療機器総合機構)による審査を受けて承認されると医薬品としての販売が可能となります。
第Ⅳ相試験(フェーズ Ⅳ)
- 対象者
- 患者(発売後に実際にその化合物を使用する人)
- 試験目的
- 製造販売後臨床試験と呼ばれ、実際に発売した後に広く使用されることにより、第III相まででは検出できなかった予期せぬ有害事象や副作用を検出するのが主な目的です。
市販直後調査及び市販後調査によって行われるのが通例です。
インフォームド・コンセント
治験を行う者(医療機関)は、治験への参加者に対して、治験に先立ち、実施される試験の目的や内容について説明する義務があります。
また、参加者が患者さんであるならば、その治療法などについてのメリットとデメリット、他の存在する治療法などを詳しく説明し、予想される最悪の帰結に関してまでの合意がなければなりません。
そして、十分な理解の出来た参加者本人の自由意思によってのみ治験への参加は決断されなければいけません。
また、いつでも参加者は自由に治験からは離脱でき、治験からの離脱に対して、今後の治療や経済的制裁などの不利益を被ることが一切ないことを保証しなければなりません(間接的な強制も許されない)。
治験に関与する組織・職種
医療機関における組織
治験に関与するのは、治験責任医師、治験分担医師、治験協力者などの種類があり、これらの業務を行うためには、治験毎にあらかじめ治験審査委員会の承認を得なければなりません。
治験責任医師・治験分担医師
治験責任医師は、治験の実施に関して責任を有する医師または歯科医師のことを指します。
治験ごと、各医療機関にひとりずつ任命します。
治験分担医師は、治験責任医師の指導の下に、治験に係る業務を分担する医師または歯科医師のことです。
ひとつの治験に複数人の医師がいます。
治験協力者(治験コーディネーター、CRC:Clinical Research Coordinator)※
治験責任医師又は治験分担医師の指導の下、治験業務に協力する者のことを指します。
通常、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの医療関係者が治験協力者となります。
インフォームド・コンセント取得補助、治験のスケジュール管理、治験中の患者のサポート、症例報告書作成補助など、治験において治験協力者が果たす役割は極めて大きいです。
治験事務局※
GCPに基づいて治験実施にまつわる様々な事務を担当する組織をいいます。医療機関の長により指名されます。
治験事務局は、治験業務について規定されている、治験業務手順書(SOP:Standard Operating Procedures)の整備や治験審査委員会開催準備などの業務を行っています。
治験施設支援機関(SMO:Site Management Organization)
治験実施施設である医療機関と契約し、医療機関における治験業務を支援する組織をいいます。
当院においても、SMOの治験コーディネーターが主に治験に関する業務と、治験審査委員会の開催などの治験事務局業務も行います。
※治験協力者、治験事務局業務をSMOに依頼して実施しています。
治験審査委員会
治験審査委員会(ちけんしんさいいんかい、IRB = Institutional Review Board、以下IRB)は、治験実施機関が治験を実施する際に厚生労働省に届け出た治験デザインを審査する中立的な組織で、治験の倫理性、安全性、科学的妥当性を審査する委員会です。
当院ではIRBを院内設置審査委員会で実施しています。IRBは、日本における治験の基準であるGCP省令(臨床試験の実施の基準に関する省令)において定められています。
医師や薬剤師、弁護士、教員などの専門家のほか、一般人も加わって、治験の実施の基準(GCP省令)に沿って、治験実施の可否を検討し、治験開始後は定期的に審査を行います。
また、被験者(治験参加者)から文書によるインフォームド・コンセントを得るための方法や資料や当該薬剤における有害事象の発現状況などについて審査し、承認しています。
治験審査委員会の議事録の閲覧希望の方は下記までご連絡ください。
梶川病院治験事務局
TEL:082-249-6411